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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)3130号 判決 1952年1月10日

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中三〇日を本刑に算入する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人の上告趣意について。

所論は、事実誤認の主張に帰するから、刑訴四〇五条の上告理由に当らないし、また、記録を精査しても、同四一一条を適用すべきものとも認められない。

弁護人小林直人の上告趣意について。

所論は、憲法三二条違反とはいっているが、その実質は、単なる訴訟法違反の主張と解されるから、刑訴四〇五条の上告理由に該当するものとは認め難い。

次に、原審において、被告人が期間内に適法に控訴趣意書を差し出したこと、その趣意書の内容は結局本件起訴事実を全部否認し第一審判決の判示第一乃至第三事実の事実誤認を主張しているものと解すべきこと、並びに、原判決が被告人の右控訴趣意について判断を与えず単に弁護人の指摘する第一審判決判示第三の事実についてのみ事実誤認の有無を判断し、第一審判決の認定した第一、第二の事実の誤認の有無については特に判断を示さなかったことは、いずれも所論のとおりである。そして、控訴審では、被告人のためにする弁論は、弁護人でなければ、これをすることができないものであり、また、公判期日には、検察官及び弁論人は、控訴趣意書に基いて弁論をし、若し弁護人の出頭又は選任のないときは、原則として少くとも検察官の陳述を聴かなければならないものであり、なお、控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならないものである。されば、本件のように、被告人から期間内に適法に差し出された控訴趣意書がある場合には、適法にその趣意書を撤回するか又は公判期日において適法にこれを陳述しない旨の明確な意思表示のない限りは、裁判所はこれを調査しなければならないにかかわらず、原裁判所が被告人の控訴趣意については何等の判断をも与えなかったことは、明らかに違法であるといわざるを得ない。しかし、この点に関する主張は単なる訴訟法違反の主張であって刑訴四〇五条の定める上告理由には該当しない。なお、原判決は、第一審判決の判示第三の事実については弁護人の控訴趣意に基く事実誤認がない旨適法に判断を加え、従ってこの部分については、被告人の控訴趣意について特に判断しなくとも原判決に影響を及ぼさないこと明白であるばかりでなく、原判決は、第一審の量刑を不当であると認め第一審判決を破棄し、刑訴四〇〇条但書に従い更に判決すべきものとし、職権をもって第一審判決の認定した判示第一、第二の事実認定を是認引用したものと認めるを相当とする。従って、第一審判決の事実認定の全部に誤認がないものとの前提の下に、判示第一、第二の事実については刑法二四六条一項を、その第三事実については同条二項を夫々適用し、併合罪の加重をした刑期範囲内で第一審判決の一年の懲役刑を同一〇月に減軽したものである。されば、原判決には前示のごとき違法はあるけれども、その違法は結局判決に影響を及ぼさないものというべく、従って本件においては、刑訴四一一条に従い原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認め難い。

よって刑訴四一四条、三九六条により判決で上告を棄却し、未決勾留日数の算入につき刑法二一条に、訴訟費用の負担につき刑訴一八一条にそれぞれ従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)

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